駅の売店で売られている雑誌やデパートなど
の相談会場でも「相続税大増税時代の節税対
策」といったものを良く見かけるようになっ
た。
私も参考になるので、ときどき相続税対策の
雑誌などを読むが、一般の人向けにわかりや
すく書かれている。
なかには節税対策として、いまだにマンショ
ン・アパート経営を勧める不動産会社も多い。
なぜ、いまだにアパート・マンション経営を
相続税対策として勧めるセミナーや広告、
電話営業が多いのだろうか。
今日日、不動産賃貸経営を勧める税理士など
の専門家は少なく、むしろ危険であると警鐘
を鳴らしている。
それにも拘わらず、このようなビジネスがは
びこっているのは業者が儲かるからであるこ
とは言うまでもない。
ましてや、上場会社や資金力のある会社も多
いので、宣伝力や信用力も助長する。
そして、相続税対策業者の餌食にされやすい
のが税理士などの専門家と縁のない一般家庭
(以後「ターゲット」と呼ぶ)である。
ある程度の資産家はすでに相続税対策として、
自ら賃貸業や不動産管理会社などを経営して
いるケースが多く、毎年、確定申告を顧問税
理士に依頼していると思われる。
顧問税理士と良い関係を築いていれば最新の
節税対策などの情報も入手できる環境である
し、不動産会社からの提案についても相談で
きる。
ところが、今回の相続税改正により、今まで
相続税とは無縁だったターゲットも相続税を
納税する可能性が生じてきた。
しかし、このターゲットは一般的なサラリー
マン家庭が多いため、税理士とは無縁。
なぜなら、サラリーマンは通常「年末調整」
で税金の手続きは会社が代行してくれる。
せいぜい住宅ローン控除や医療費控除を使う
ために自分で確定申告するくらいである。
税金も不動産経営も素人のターゲットは、特
に本人の属性が良く与信評価が高ければ尚、
まさに相続税対策ビジネスの餌食になりやす
いと言える。
私は20年以上相続税対策の無料相談をして
いるなかで、よくある相談ケースを紹介した
い。
相談者は「現在、預金や株が2億円程ある。
このまま相続税対策をしないで亡くなった場
合は相続税がそっくりかかると聞いたが本当
か?」
「さらに、住宅メーカーから「借金をして賃
貸住宅を建てれば節税になる」と勧められた
が本当か?」という相談である。
私は、節税になる可能性はあるが、採算の合
っていないシュミレーションやいい加減な経
営計画やキャッシュフロー計画を出してくる
業者も多いことを説明したところ、後日、資
料を持参して事務所に相談に来られたのである。
住宅メーカーが提案した資料を拝見したが、
おおよそ想定どおりの甘い前提条件によるシ
ュミレーションだった。
私の方で改めてシュミレーションを行ってみ
ると、5年後に資金繰りは破たんする計算結
果となった。
経験もノウハウもない人にとっては、その判
断は容易ではない。
この相談者は運が良い方である。通常なら専
門家に相談する機会もなく、契約しているは
ずだからだ。
また一般的には、相続税対策を周囲に秘密に
しておきたい心理が働く。
なおさら、相続税対策ビジネスの被害者は減
らない。
借金をして賃貸不動産経営を始める場合、相
続税の節税はできたかもしれないが、それだ
けでは済まない。
黒字経営とキャッシュフロー経営をしていか
なければならない。
家賃収入から経費を差引いた残りから、借入
金の返済をしていくのだが、家賃収入から経
費の支払いをした残りが借入金の返済額に足
りなければ破産することになる。
破産をすれば財産を手放すことになる。それ
では、節税した意味がなくなる。
破産しないためには賃貸不動産の黒字経営ノ
ウハウが必要になる。
オーナー本人に賃貸不動産黒字経営ノウハウ
があるのか、ないのならばノウハウを持った
パートナーがいるのか。
黒字経営を継続するには、物件のコンセプト
を明確化し、賃貸人の集客方法や収支シュミ
レーションを設計し、月次決算でタイムリー
に成績を把握し、問題があれば早期に対応す
る環境が必要である。
この収支のシュミレーションは戦略を立てる
上でとても重要となる。
ところが、不動産会社からの提案書は、甘い
見積もりが多い。将来の空室率の予測が甘か
ったり、建物の解体費用やメンテナンス費用、
所得税・住民税・消費税などが考慮されてい
なかったりする。
収支シュミレーションのポイントは、総所有
コスト(メンテナンス費用、解体費用、集客
広告コスト、複利による金利、税金)、家賃
予測(減少予測)である。
できれば自分で作成するのが望ましい。
自分で作成するのが難しい場合は専門家に依
頼してもよいが、先ほどのポイントが網羅さ
れているか再度自分で確認できる情報収集等
は欠かせない。
不動産経営や節税対策の結果は通常長期間を
要する。
創業者が亡くなってしまえば、当初の目的も
わからなくなってしまうおそれもある。
経営者である以上、リスクはつきものと言わ
れてしまえばそうかもしれない。
今のところ問題として表面化していないが、
今後、社会問題となったらどうだろうか。
不動産会社の営業マンがそこまで考えて仕事
をしているとも思えない。
しかも、信用力も資金力もある会社には宣伝
力がある。そうなふうに考えてしまうほど相
談案件は実に多いのである。
われわれのような専門家は地道に訴えるしか
なく、少なくともクライアントの財産は守っ
ていく使命はある。
不動産経営は「経営」である以上、十分な勉
強や研究が必要である。節税対策そのものに
リスクがあることを認識してもらう必要があ
る。
私も開業間もないころハウスメーカー主催の
「資産家のためのアパート経営セミナー」と
いうテーマの講師をしたことがあった。
今思うとやるんじゃなかったと反省している。
ハウスメーカーと提携すれば私の本当の顧客
はクライアントではなく、ハウスメーカーに
なってしまい公平なアドバイスができなくな
る可能性があるからだ。
開業間もないころは顧客もなく、経営ノウハ
ウもなかったので、顧客の紹介があるかもし
れないと思い安請け合いしてしまったが、結
局、ハウスメーカーに利用されていたことに
なる。
一番大切なことは、私の使命は顧問先の将来
を含めた財産を守ることである。
今はおかげさまでお客様にも恵まれ、当然、
どのハウスメーカーとも提携していない。
相続税対策ビジネスの主流である「賃貸不動
産が相続税対策になる」理由を簡単に説明し
ておく。
租税特別措置法69条の4で「小規模宅地等
についての相続税の課税価格の計算の特例」
という規定が定められているからである。
更地の上に賃貸家屋を建てることで、貸家建
付地の評価として地域によってはおおよそ2
割ほど評価が下がり、さらに小規模宅地等の
特例として評価が半分になる。
しかし、ここまで評価が下がるには理由があ
る。通常賃貸不動産を売却するとしてもたい
した価格では売れないから売却しても多額の
借金だけが残る。
あるいは賃貸不動産を相続税の納税資金にあ
てようと考えても、相続税の物納制度が厳格
になったために賃貸不動産を物納にあてるの
も難しくなっている。
相続税対策とは、本来所有する財産を守り、
適正な税金を納税することである。
今ある財産をどのように運用し、あるいは組
み換えをし、相続時にどのように分割し、相
続税をどのように納めるかを考えることであ
る。
相続税対策は相続対策の中の1つの考え方で
ある。
相続対策には相続発生前にできることと相続
発生後にできることがあり、相続発生前にで
きることには、もめない為の対策、納税資金
対策、そして相続税対策がある。
相続税対策の代表的な対策として、先ほどの
小規模宅地等の評価減の活用、生前贈与、資
産保有会社などがある。
私の場合、相続対策は具体的には、次のよう
なステップで検討する。
●ステップ1 【現状を知る】
まずは相続税対策する前の状態で、相続税額
がどのくらいになるのか試算する。
相続税の試算をする場合は、「2次相続」ま
で考える。
2次相続とは、平均寿命から考えると通常最
初の夫の相続を1次相続、次の妻の相続を2
次相続という。
なぜ、2次相続まで試算が必要かというと、
相続税法上、配偶者に対する相続税額の軽減
という規定があり、配偶者は、法定相続分(
2分の1)または1億6千万円のいずれか大
きい金額までは相続税が課税されない。
ターゲットの場合、ほとんど妻が相続した場
合は、相続税が発生しない可能性が高い。
しかし、2次相続時には当然この規定が使え
ないため、相続税が発生する可能性が高いと
いえる。
事例を使って簡単に説明するとイメージしや
すいと思う。
相続人が妻と子2人で、1次相続も2次相続も、
法定相続分に従って相続した場合の改正前と
改正後の相続税は表の通りである。
※1・2次相続の合計の表
上記の表でもわかるように相続税の課税価格
が1億円の場合の1次2次相続合計の実質負
担率は3.95%である。
一般的には相続税の税率は高いと言われてい
るが、実際はそうでもない。
仮に相続税の課税価格が2億円だった場合に
、1次2次相続の相続税額は2,120万円
である。
この2,120万円のうちどのくらい節税し、
その節税のためにどのくらいのリスクを背負
うのか検討する必要がある。
リスクの方が高いと思うなら、相続税対策を
しない選択肢もある。
●ステップ2 【相続税対策のシュミレーション】
財産を誰に相続させたいかの本人の希望や納
税資金対策が終わったら、相続税対策である
小規模宅地等の評価減の活用、生前贈与、資
産保有会社の活用などトータル的に検討する。
いくつかのパターンで相続税・贈与税をシュ
ミレーションすると、より方向性が明確にな
る。
その結果、賃貸不動産経営をすることになっ
た場合は、ステップ3以降を検討する。
●ステップ3 【賃貸不動産経営をする場合
は、経営のコンセプトを明確化する】
なぜ、コンセプトが必要かということになる
と思うが、賃貸不動産経営に限らず、黒字経
営にはなくてはならない基本である。
マーケティングの基本ともいえる。
全国の賃貸住宅の空室率は20%くらいとな
っている。今後の消費税増税による駆け込み
需要などでさらに供給率は増えると予想される。
そんな供給過剰な状況になれば立地、建築年
数、家賃などの条件が悪ければどんどん空室
率が高くなる可能性がある。
そこで競合物件との差別化や集客ノウハウが
必要になる。
立地が悪くても、建物が古くても、家賃が高
くても、入居希望者のニーズを満たし、他に
ない物件ならば十分競争力はある。
そもそもコンセプトとは、その物件の概要、
独自の売り、経営理念のようなものである。
コンセプトの簡単な作り方がある。1つ目が
顧客を明確にすることである。
例えば働く女性を顧客としたとする。
2つ目はその顧客に対して提供したいユニー
クな価値である。
例えば、働く女性に安全と安心して暮らせる
居住空間と夜や週末は一人でも楽しめるコン
テンツを提供することを約束する。
3つ目にそれができる根拠を明確にすること
だ。
例えば、安心・安全面で夜間は警備員が在中、
ホームセキュリティ完備、さらに有名な女優
さんの推薦があるなどである。
この3つの要素が決まったら、不要な言葉を
排除してシンプルな表現にしてみる。
きっと顧客にとっては魅力的なコンセプトが
できるはずである。
●ステップ4 【次に先ほどの総所有コスト
などを考慮した現実的な収支シュミレーションをする】
収支シュミレーションをする際のポイントに
ついては、先ほど触れたので、ここでは売上
が安定的に継続する仕組みづくりについてお
話ししたい。
ステップ3でコンセプトを作ったら次に見込
み客に知ってもらう必要がある。
つまり、広告である。
従来のように、不動産会社のみに営業を依頼
していたのでは頼りない。不動産会社事態が
依然古い体質のところが多く、マーケティン
グに関しても異業種と比較して遅れている業
界である。
賃貸不動産業界も異業種と同様イノベーショ
ンを起こす必要がある。逆に、遅れている業
種だからこそチャンスがあるとも言える。
やはり、インターネットを活用した広告は低
コストだし、有効に活用すべきである。
広告もただ業者に丸投げするのではなく、先
ほど考えたコンセプトをどのようにすれば見
込み客に見てもらえて、どのように信頼関係
を構築し、どのように契約まで導くのか。
さらに、見込み客のニーズを分析したり、入
居者などにアンケートなど実施するなどして
アフタフォローを充実させることも重要であろう。
●ステップ5 【月次決算体制を構築し、問
題点を早期に改善する】
ステップ3とステップ4は設計と計画である。
しかし、計画通りいくとは限らない。黒字経
営をするためにはもちろん、予実管理をしっ
かり行う為に月次決算は必ずしなければなら
ない。
収支シュミレーションもあるし、ある程度ド
ンブリ勘定でわかるかもしれない。
私は20年以上この仕事をしているが、経験
上実際の数字と感覚には必ずギャップが生じ
る。
私はよくクライアントに例え話しとて、ダイ
エットの話しをする。
ダイエットをはじめた当初は毎日体重計に乗
る。しばらく順調に体重も減っていく。
あるとき、忘年会などで飲み会が続くと怖く
てあるいは酔っているせいか面倒くさくて体
重計に乗らなくなる。
久しぶりに体重計に乗るとリバウンドしてい
ることに気づく。
こんな経験をしたことがあるのは私だけでは
ないはずである。
1年に1回確定申告のために数字をまとめる
だけでは、その異変に気付くのが1年に1回
となってしまう。
月次決算なら1ヶ月以内に異変に気づき早期に
手が打てる。
空室率が増えたために、広告投資をしたとし
ても、その効果を検証する必要がある。特に
インターネットによる広告の検証は毎日する
必要がある。
アクセス数、キーワードなどの動向はタイム
リーに分析できるのはインタネット広告の特
徴だ。
そして、より効果のあるキーワードや広告媒
体、広告時期などのノウハウを積み上げてい
く。
もしかしたら、広告費を増やしたために一時
的に赤字になるかもしれない。しかし、その
後入居者が増え黒字になるかもしれない。
収支シュミレーションをやりなおして、その
結果、赤字経営から黒字経営に逆転できるの
なら広告投資をする価値はある。
その経営判断は月次決算をしていなければ自
信をもってできないはずである。
最後に、相続税改正イコール相続税対策では
ない。相続税改正イコール相続税対策ビジネ
スなのである。
相続税対策が本当に必要なのか、相続税対策
が必要だった場合、複数ある相続税対策の中
から最良の方法を検討してほしい。
不動産会社はターゲットの数年後あるいは数
十年後を真剣に考えているとは限らない。
だからターゲットは自分の身は自分で守る術
を勉強すべきである。
もし、賃貸不動産経営を始めるのなら、異業
種同様にマーケティングを導入し、しっかり
と設計と計画を作り、定期的に検証をするこ
とを提案したい。
固定資産税の評価額再計算による還付金と税率軽減
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